教育の自主性を尊重し、適切な性教育をむしろ行うべき

今月、16日の文教委員会で自民党の都議から足立区の区立中学校で行われた性教育の授業が、学習指導要領に照らして不適切だとして、都教委からも今後調査を行い注意喚起を行っていくという答弁がありました。

私はこの質疑を聞きながら、自分自身が今までに伺って来た様々な声や、またつい最近一般社団法人スタディライフ熊本の特別顧問の田尻由貴子さんから熊本のこうのとりゆりかごのお話を聞いた、その内容を思い出していました。


私がこれまでに聞いて来た少女たちの声は、自民党の都議の先生方が考える「基本的な、理想の家庭」という形を知らない子どもたちの声でもあります。

両親に育てられていない少年少女たちもいます。

一緒に暮らす家族がいないか、いても関係が良好ではなく、中学ごろから家出を繰り返す子もいます。

施設等で育ち、男女の関わりや家庭の成り立ちについて教えてもらえる機会が多くは得られて来なかった児童生徒たちもいます。

そのような児童生徒さんたちにとって、また親御さんとともに暮らしている場合であっても、なかなか思春期に親御さんと性についての話をしづらい、相談できる相手がいない、そのような声もあります。

もちろん全員ではありません。一部かもしれません。けれども、悩んでいる当事者が一部であるからと行って、教育の授業の内容から外されるということは性教育ではない他の分野ではなかなか起きにくいことです。


衝撃だったのは、田尻さんから聞いたお話です。熊本のこうのとりゆりかごに生まれたばかりの赤ちゃんを委ねるためにやってくるお母さんのうち、最も多いのは東京からくるお母さんです、と。そして、とても若い、まだ成人もしていないお母さんも多いです、と。

田尻さんからも、東京都を始め、全国でしっかりといのちを生み出すということについての意識を持ってもらえるような教育をしてほしい、というお言葉を伺っていました。その翌週に、件の委員会がありました。


子どもたちが中学を卒業して社会に出ていくその前に、最低限の性教育を施そう、と女性教諭が地域の実情やニーズを踏まえて、必要であると判断して行った性教育は、学習指導要領の中学生の範疇にない内容であるからという理由で不適切とされるのはいささか乱暴ではないでしょうか。区が適切と判断して行っていた授業を、都は不適切と判断して今後全校に注意喚起をしていく。区が適切と判断した理由は地域の実情やニーズを踏まえてのボトムアップでの教員からの想いの結実であるのに対して、都が不適切と判断した理由が学習指導要領の記載の有無だけであるならば、だいぶ分が悪いように思えます。

では、学習指導要領に記されていない内容が授業で触れられる事例は他にないのでしょうか?また、学習指導要領に記されていないことを授業で扱う場合、都教委はそれを適切・不適切と判断する明確な基準は設けているのでしょうか?


目黒区や杉並区では、CAPプログラムという教育プログラムが実践されています。これは、予防教育“CAP(キャップ Child Assault Prevention/子どもへの暴力防止)プログラム”といい、子供達の自信、安心、自由を確保していくため、教職員や保護者、児童へと働きかける内容となっています。いじめや性暴力、虐待や犯罪などにあって欲しくない、また万が一そのような場面に出あうことがあっても、しっかりと声をあげて自らを守る行動が取れるようになってほしい、そういった願いがこのCAPプログラムには込められています。教員が特別な授業を総合学習の時間などに施す時には、様々な想いや願いが込められていることがあるのだと、各区市町村で取られる様々な教育施策にはいつも頭の下がる思いです。


今回文教委員会で取り上げられた当該中学校の授業について、足立区教育委員会は「10代の望まぬ妊娠や出産を防ぎ、貧困の連鎖を断ち切るためにも、授業は地域の実態に即して行われ、生徒と保護者のニーズにあったものだ」と、「不適切だとは思っていない」という旨を表明しています。もっとも地域の実態について近い場所で対応し検討を重ねて来た区の教育委員会に対して、中学の学習指導要領に記されていない言葉を用いて児童生徒に説明をしたことから「中学生の発達段階に応じておらず、不適切」とした都教委の判断は非常に残念です。一部の有識者からは国際的な標準から鑑みても、中学生までに性や生殖について教育することが可能になるように、文部科学省は学習指導要領を整えるべきではないかという意見も出ています。


東京都内でも、各区市町村それぞれに人口動態や地域課題は様々です。それぞれの区市町村が重んじる、また努力と考察を重ねて来た様々な自主的な教育上の工夫を、しっかりと尊重していくための学習指導要領であり、またその要領に記載されているとは言え、そもそも「児童生徒の発達段階」の認識と現状に乖離はないか?実態と教育ニーズの調査は行われているのか?学習指導要領の改正を求めていくことをむしろ東京都が要望していくべきではないのか?そのような観点からも、今後都教委に質していきたいと考えています。




斉藤れいな(さいとうれいな)公式サイト

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